未確認歩行物体
東方香霖堂などが好きなケダモノの住処
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魚がそうであるように
リクエストで答えてみたシリーズ『レミ霖』

概ねの人や一部の妖怪がぐっすりと眠り、一部の人間や大半の妖怪が起きる頃。
僕は八雲紫プロデュースの嫌疑もある壮大な星空を眺め、そっと釣竿を取り出した。
この釣竿は少し昔に、何本かが気づいたら僕の手元にあったというものだ。
おそらく外では釣りが少し廃れてきているのだろう。

夜なので油断は出来ないが、それでも歩きなれた道なのでスタスタと進んでいく。
途中で妖怪を見かけることもあったが、そういう時は迂回すれば問題はない。
誰しもが生存競争に全てを傾ける時代は確実に終わりを告げている。
もっとも僕の場合、これからその生存競争の一環を行うのだけど。

釣り。
それは餌、あるいはそれに相当する何かを持ちて魚を捕獲するということ。
魚と僕の間で行われる生存競争であることは、まず間違いない。



「ふ、ふふ……」

僕は溢れる笑いをこらえきれず、2匹目の魚を魚篭(びく)に放り込む。
理屈の通じるはずの人間や妖怪相手には上手くいかないが、魚相手だと具合が良い。
もちろん、この湖に魚が潤沢にいるのだという前提ではあるが、それでもだ。
常日頃からままならないことだらけなのだ。きちんとした手順で、きちんとした
やりとりが行え、その結果として何かを手に入れたり手に入らなかったりするのは
やはり面白いものだった。

「これをどうしてくれよう。焼くか、煮るか、外に干しておくのもいいか?いや……」
「拷問の算段?魚泥棒の上に嗜虐趣味とは大したものね」

耳元でぽそりと話しかけられ、僕は声にならない声を上げた。
パニックの最中でも魚が逃げ出さないようにしたのは我ながらいい判断だったと思う。

「誰だ……って君は確か」
「無礼な店主ね。この顔を忘れるなんて失礼にも程があるわ」

そういうが、別段激怒しているわけでもなく、ちょっと不満といった程度か。
闇の中で彼女の爛々と輝く瞳と翼はその存在感をハッキリと示している。
彼女はつくづくヴァンパイアなのだ。

「いや、そんなつもりは無かったんだが、つい」
「主語をおっしゃい」
「もちろん顔を見間違えた方だ」
「……50点ね」

ああそうかい、と言ってとりあえず糸を巻き戻した。リールという部品は優秀だ。
しかしこのレミリア・スカーレット、他に何を不満に思うというのだろう。

「他に何かあったか?」
「それよ。それ!」

彼女は釣竿と、引き上げた魚篭をビシッと指差した。
何とも不思議な立ち方をするが、どこかサマになっているのは吸血鬼だからか。

「ああ、君も釣りがしたかったのか。それならほら……」
「そう釣りがしたかった……って、違う!バカな男ね!」
「ぐあっ」

鋭く足を蹴られた。打ち所が悪かったのか、けっこう痛い。
そのまま胸倉までつかまれる……が、身長差のせいで上手くつかめてない。
仕方が無いのでしゃがんで胸倉をつかませて上げる。

「道具屋を営む傍らで魚泥棒なんていい度胸だわ」
「勝手に魚を取ったことは謝るが、なんで館の主がわざわざ出てくるんだい?」
「あら、泥棒の分際で口答え?盗人猛々しいとはこのことかしら。ふふん」

見上げられる形になって満足げ、お説教してるのでさらに上機嫌という所か。
これで館の主だというのだから信じられない。早く説教に飽きてくれることを切に願う。

「ところで、いつもの従者がいないようだけど」
「あらダメよ?話を誤魔化しちゃ」

頬に爪を立てられる。痛い。昼間とはうってかわって暴力的だ。
もの静かなお嬢様だと思ってはいなかったが、これほどまでとは思わなかった。

咲夜さんは何をしているのだろう?監督責任をしっかりはたして欲しい。
彼女の方が立場が下だった気がするが、そんな肩書きはどうでもいい。
このやんちゃなお嬢様をどうにかしてくれさえすれば。

「じゃあ話を戻すが、何で魚2匹でこんな目にあわなきゃいけないんだ」
「退屈してたら魚泥棒にでくわすんだもの、見逃すわけにいかないじゃない」
「どうすれば見逃してくれるんだ?」
「ねえ?見逃すわけにいかない、と言ったの。理解できないの?」
「あぐっ。いたたた」

立てた爪が食い込んだ。頬を何かが流れる感覚からして、どうも切れたようだ。
どうして食料調達を兼ねた趣味なのにこんな目に会うのか、と自らの運命を呪った。
これで目をつけられてしまっては、せっかくの穴場を諦めなければいけない。

「二度と釣りに来なければいいのか?」
「別にそこまで言うつもりは無いわよ。だけど罪には罰を与えなきゃね」
「もう十分なんだが……そうだ、魚を半分あげるから釣る許可をくれないか?」
「許可?」
「そう、許可だ。僕が一番困るのは、魚を持って帰れないことだからね。
 君がここ周辺の主として広く大きな心で許してくれれば何の憂いも無い」
「つまりは従属?」
「単なる取引だ」

その言葉が気に食わなかったのか、レミリアは半眼になりながら顔を近づけてくる。
そして、その吐息すら肌で感じる距離で僕を睨みながらこういった。

「立場ってものが理解できてないのかしら?貴方は今、そこの魚と一緒なのよ。
 貴方がこれからどうなるかは、貴方が決めることじゃないの。決定者は私。
 魚が料理される方法を選べないように貴方は私に何をされても仕方が無いの。
 それくらいわかるでしょう?よくわからない道具を扱うくらいの知恵はあるのだから」

つまり言うとおりにしろ、というわけだと理解し、僕も流石に一矢報いたくなった。

「では僭越ながら申し上げますが……魚だって油断すると逃げるんだ」

そのまま立ち上がる。
さっきまでしゃがんでいたので、一気に立ち上がれば彼女は体制を崩すのだ。

「え――きゃっ」

が、立ち上がった拍子に彼女が後ろに転ばないように支えておいた。
万が一怪我でもさせようものなら本当に殺されかねないし、ここで湖に放り投げても
後でお礼参りにやってくるであろう従者が怖いので、どうしようもないのだが。

「こんな具合にね……で、手を離しても?」
「は、早く離しなさい!離せ!」
「はい、よっこらせ。意外と軽いですね。では帰らせていただきます。ごきげんよう」
「あ……」

一方的にまくし立てて、体重の話題という嫌味も混ぜつつ足早に道具と魚を持って去る。
茂みにまで入ると、もう振り返らず、ただ耳はそばだてて家まで全力で疾走した。
まったく、とんだ災難だ。魚2匹にしてはとんでもない対価だ。





――残されたレミリア・スカーレットは爪を噛んで逃げられたことを悔しがった。
退屈しのぎに軽く運命を操作してみたが、その結果はかなり散々なものだったからだ。

ふと、苛立ち紛れに爪を噛んだ折、ふと自分の指に付着した獲物の血に気づいた。
そっと舐めてみる。忘れがたい味。突き放して逃げることも出来たのに、支えた男。
支えるだけ支え、何の力も、道具も用いずに口先だけで誤魔化して悠々と立ち去られた。
情けをかけられた。この言葉にしがたき感情、我が手で鎮めずして何が夜の王であろうか。

「……おぼえてらっしゃい」

支えられた感覚が残る自分の体をそっと抑え、レミリアは館へと踵を返した。
どうやってあの店主に報いるかで、頭が一杯になったのだ。
その口元に浮かんだ微笑が、どういう理由で出てきたものか、まだ、誰も判らない。
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