未確認歩行物体
東方香霖堂などが好きなケダモノの住処
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振り向けば死

春。
桜ばかりが目に入るかと思えば、少し見る場所を変えれば色とりどりの花。
花。花花花花。そう、ここは花畑。

それは迂闊な行動だった。いつもの場所以外に一歩踏み出した僕の招いた失敗だった。
たまには見たことの無い場所へと出かけようと思い立ったのが、そもそも間違いだった。
いや、正解だったのか。もうわからない。僕は今、一面の花畑を抜けるべく歩いている。
さっきから同じ所を何度か回っている気がする。というか、回っていた。

つまり、迷ったのだ。花畑で。

歩けど歩けど、来た道へ戻ることができない。
戻りたくても、どこから来たのか判らない。
意思があればどこにだって行ける。戻れるかどうかはさておいて。


とにかく真っ直ぐに歩くことにする。遠くを目標に、一定の調子で歩く。
背の高い草花が無いことが、どこぞの竹林よりはマシなのかもしれない。

山の中に道具が落ちているのを期待してたわけではない。
マヨヒガのようなものがそうそうあるわけでもないのだ。

「こんにちは」

だいぶ目標に近づけた実感を掴んだところで、背後から女性の声が聞こえた。
僕は振り返って声の主を見る。助かった、と思った反面、いやな予感もしていた。
どちらかといえば、こんな人里は慣れた場所で見かける存在は人外のことが多いからだ。

周りを見るが僕以外誰も居ない。穏やかな日差しが降り注ぐ花畑で、僕と彼女は二人きり。
それは傍から見れば素敵な光景なのかもしれない。美しい一瞬と言ってもいい。
だけどそれは、ここではないどこかの話だ。幻想郷の花畑で浸っていい夢じゃない。

「こんにちは」

まっすぐこちらを見る彼女の瞳で、ようやく僕の頭は普通の思考まで引っ張り戻される。
さっきから普段見ない色を見続けていたので、彼女が花畑に溶け込んでるように見えた。
あるいは巨大な花が話しかけてきたのだと勘違いしそうになってしまった。
よくみれば、近い色の服を来て傘をさしているだけだ。僕は自分の錯覚を恥じた。

「僕……か?」
「他に誰もいないわよ、私の花畑の中にはね」

それで察した。
彼女は確認しに来たのだ。自分の領域に踏み込んだ者が何者なのかを。

「すまない。勝手に入るつもりは無かったんだ。花に見とれていたら……」
「だったら遠くを見るんじゃなくて、花を見ているべきだわ」

意地悪そうに笑う。彼女はわかって言っているのだろう。
この花畑がただ咲いているのではなく、何らかの力を持っているということに。
あるいは彼女こそが、そうしている張本人なのかもしれない。

「堪能したから帰ろうとしたら迷ったんだよ。それに花はもう十分だ」
「そう?年中昼夜、四季の日々うつろう花は飽きないと思うんだけど」
「花は綺麗だったけど何事も適度さが必要だ。おかげで君まで花に見えた」

目が慣れてくればそうでもないのだが、さっきの自分の目にはかなり堪えた。
日ごろが薄暗い室内で、色あせた道具に囲まれている反動もあるのだろうが。

「……これって今、口説かれてるのかしら。うん。春ね!」
「君は何を言っているんだ」
「その度胸は買ったげる。あ、ここで肥料になってく?」

不適に笑う彼女に僕は丁重にお断りをいれ、人里の方向を教えてもらった。
僕は古道具屋であって、喧嘩やその他の面倒ごとを売るつもりも買うつもりもない。

「風見幽香」
「何?」
「私の名前よ。この花畑の主にして最強の妖怪。死ぬまで覚えなさい?」
「無事に帰れたら検討しよう」
「無事に帰れなきゃ肥料になるからね」

直後、彼女の周囲の景色が揺らいだ。
いや正確には『景色の大半を占めるもの』が動いたのだ。

「……これは、花が!?」
「せっかく来たんだから、このフラワーマスターの生み出す景色――」

直感的に後ろに跳躍。そのまま体を捻り、前を向いて走る。

「堪能していくといいわ!」

直後、僕のいた場所へ綺麗な白い花が殺到した。
気づけば周囲の花が、何本もの花が、僕へ向かって伸びてくる。襲い掛かってくる。

花に意識を向けなかったことは何度だってある。踏み潰したこともある。
飾ったこともあるし、育てたこともある。匂いを嗅ぐこともあった。贈ったこともある。

「ほらほら、頑張って走るのよー」

だが、花に対して恐怖を抱いたのは、これが始めてだ。

そして花畑の果てまで走った時、果てで彼女は待っていた。

「はいお疲れ様。そういえば、まだ名前聞いてなかったわ」
「……もりちか……りんのすけ……」
「そ。じゃあね霖之助。また来てもいいわよ」

恨めしい視線を送りつけて、答えることなく店まで戻る。
今日一日でずいぶんと歩いた気がしたが、意外とそうでもなかったようだ。

姿鏡で自分を見たら、泥だらけならぬ花だらけ。
風呂に浸かろうと服を抜いたとき、そっと1本、懐から花が落ちてきた。
青紫のかわいらしい花。
あれだけの目にあったのでどうにも捨てる気になれない。
売り物の中にあった使われない花瓶に、そっと生けておく。

もし香霖堂を訪れる客が花に詳しければ、気づくこともあるだろう。
そっと卓上の隅に飾られた、勿忘草に。


翌日、それを見た少女たちがその花について熱く語っていた。
何でも勿忘草という花だそうで、たいそうロマンチックな意味のあるものらしい。
僕は詳しく話すように何人かに言われたが、とても話す気にはなれなかった。

「あなたをわすれない……か」

いっそ忘れられれば、とつぶやくが、当分は花を見るたびに思い出しそうだ。
そんなことは関係ないとばかりに咲く花が、少し羨ましい。

花畑で割と大規模な争いがあったと聞いたのは、それから暫くあとだ。
八雲紫や風見幽香が面白そうに、あるいは面白くなさそうに話すのが酷く印象的だった。

「知らない。僕は何も知らないし関係ないんだ。君らもそう思うだろう……?」

僕は水をやりながら、草花に、そう語りかけた。



...end ?
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