未確認歩行物体
東方香霖堂などが好きなケダモノの住処
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ひっこしそば
リンクを申し込まれて思いついたネタ。鬼狼・鬼干瓜様に感謝。

「昨日で米は尽きた。かといってパンのようなものは無いし」
日が沈む頃、僕は夕飯をどうするか考えてひとりごちた。
抜けばいいかと結論付けると、コンコンと扉を叩く音がする。

「はい、開いてますよ」

開け放たれる扉の先にいた人物を確認すると僕は食欲が減退。腹の虫が沈黙する。

「ごきげんよう」
「そろそろ閉めようかと思っていたんですが」
「あら、間に合ったようで何よりですわ」

手に傘と包みを持って、それでいながらドアから中途半端に離れた立ち位置。
どうやって叩いたのか軽く問いたい衝動は、封殺した方が身のためだ。

「はい、どうぞ」
「何ですかこれは」
「引越し蕎麦です」

渡された包みを確かめると、なるほど、そこには蕎麦が入っている。
僕の意識は蕎麦の前にある引越しという単語を排除したくて仕方が無いのだが
意識の隙間に楔を打ち込むがごとく、彼女の言葉はガツンと突き刺さる。

「すみません。今何と?」
「だから、引越し蕎麦です」
「――ああ、なるほど。僕に引っ越せと」
「いいえ?まあ、引っ越しても構いませんけど」

現実逃避というのは正気を保つためのささやかな自衛手段だ。
ぐにゃり、と空間が歪んでスキマから瞳が見えた気がするが気のせいに違いない。
目が合ったような気がするのも勿論、気のせいだ。うっとりじっとり
それでいてねっとりと見られていたなんてのは気のせい以外の何だというんだ?
そうじゃなきゃ僕は発狂する。

「……ちょっと失礼」

思わず店の外まで駆け出す。
八雲紫ならばある日突然、家の一軒や二軒を出現させるくらいやってのけるからだ。
だが僕の瞳には、いつもと変わらない光景しか映らなかった。

「何も見えませんが」
「あら、さっき見たじゃありませんか?出入り口を」
「ははは」
「うふふ。偏在してるんですよ」

笑って誤魔化して、とりあえず持ちっぱなしの蕎麦をそっと机に置く。
偏在。つまり真面目に引越してくる必要性は無いということか。
だとすれば蕎麦こそ本来の目的であり、単に蕎麦を届けに来たのだろうか。
蕎麦に非は無い。むしろ慢性的な食糧問題と貧困にあえぐ状況下では、かなり尊い。

「なんというか、それでは別に蕎麦を届けなくても」
「そういうことですので、これからもよろしくお願いしますね?」
「どういうことなのかわかった例が無いんですが」
「あら、判ってらっしゃるじゃないですか」

いま貴方が本気でおかしそうに笑っていることくらいは、と心の中で言い返し
ゆっくりと扉を閉めて去る彼女を、僕は死んだ魚のような瞳で見つめていた。





「つまり引越しも何も無いと思うのだけど」

天ぷら蕎麦の天ぷら抜きを啜り、美味い蕎麦の風味を最大限に堪能してぼやいた。
あのぞっとするような瞳とアイコンタクトしてしまったのが悔やまれる。
虚空から、じっと見つめてくる。あれは何の瞳だというのだろうか。
何かが繋がる時の線を僕の感覚が擬似的に瞳として認識しただけに過ぎないのか。

「虚無が如く隙間が存在するというパラドックス……」

それを自分が定義して何とする、と結論付けて流しに器を放り込む。
かすかな忍び笑いが、器の沈む音に混じって聞こえてくるようだ。

本当のことなんて、結局のところはよくわからない。
だけどそんな音を聞い僕は、案外、彼女は本当に近くへ越してきたのかもしれないと思った。
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