未確認歩行物体
東方香霖堂などが好きなケダモノの住処
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お守りさまは蛙様で...02
僕の身体は宙を舞った。

別に意図して空を飛んでいるわけではないし、巫女のような能力は無い。
しがない道具屋である僕がそんな状態を維持するための条件は簡単だ。
ほんの少しの迂闊さをもって、崖っぷちで足を滑らせればいい。

といっても空を飛んでいるのはわずかな時間で、やがて僕は地面に落ちる。
このまま腰をしたたかに打ち付けて動けなくなることを覚悟していたが、
意外なことに次の瞬間、僕は水中の中にいた。
ドスン、ではなくてザブン。温泉に入る前の水浴びとは恐れ入る。
地下水はひんやりと冷たく、夏ではないことが少し悔やまれた。

僕は持ってきた道具を落とさないように気をつけながら泳いで岸を探した。
暗闇の中で岸を探すのは並大抵の苦労では無かったが、流されるうちに
何とかそれらしき場所に辿り着くことができる。

岸で手持ちの道具に欠けが無いかを手探りで探しながら、ふと自問する。
「ここは、こんなに広い空間だっただろうか」
答える者はいないが、自分の知る知識においては、これほど広大ではなかった
……と、思う。確証は持っていないが、この広さはいささか不自然だ。

封印が施されていた形跡も無い。本当に封じる気があるなら、存在すらも
隠匿しきるような妖怪に心当たりがあるのだが、止める気配も無かった。
それほど『彼女』が暇ではないだけなのかもしれないが。

さて、ここからずっと岸を歩いていけば地獄にでもいけるのだろうか?
灯りを点すのにうってつけな道具を持ってきたので、それを取り出してみる。
ヒカリゴケの一種で、これは知り合いの魔法使いが作った改良種だ。
彼女に言わせればカビもキノコもコケも親戚らしいが、とても同じには見えな

い。
だが暗闇の中では実にありがたい光となって道を照らしてくれる。
濡れたからといって別に光源としての機能が損なわれた様子は無かった。

どちらに向かったものかと思案すると、懐から蛙が飛び出した。
そういえば連れてきていたな、と今更ながらに思い出す。
「ああ、すっかり忘れてたよ。無事なようで何よりだ」
本心はどうでも良かったので棒読みの台詞のように呟いた。
抗議してるのか、ちいさく何度も跳ねてケロケロ鳴いている。
「そんな事を言われても、僕にはわからないな」
逃げるときは逃げるだろうと肩に乗せて歩くことにした。

しばらく歩くと、なにやらチラチラと光るものが見えた。
次に空を切る音。そして頭部に向かって何か飛んでくる……
ので、当然のように避ける。わざわざ当たる道理は無い。

「きゃあ!」

回避した結果、彼女を支配する物理法則に基づいて運動エネルギーを遺憾なく発揮。
そのまま岸辺を転がり水に落ちて、桶に入った少女は緩やかに流されていく。
かわいらしい悲鳴がキンキンと洞窟の中に響く。これが地底。恐ろしい場所だ。
何か溺れているが知ったことではない。どのような事情があったのかは知らないが
僕はあくまでも温泉に入りにきたのである。

「た、たすけ……ぶくぶく」

彼女は自然法則に従い、そのまま川に沈みそうだ。桶を捨てて逃げればいいだろうに。
ケロ、と蛙が鳴いた。本当にそれでいいの?と言いたげに。どうでもいいと言えば嘘だが
どう前向きに考えたところで、助けた直後に襲い掛かられる可能性は拭い去れない。
……などと悩んでいると彼女がいよいよ沈んでいったので、どうせ濡れているのだと諦め
再び水に濡れて助けることにした。泳ごうと思ったが、自分の胸くらいの深さしかない。
歩けば十分だった。

地下に来てから既に災難続きである。


つづく
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