未確認歩行物体
東方香霖堂などが好きなケダモノの住処
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夜に独り、その後二人
客の訪れることも稀な、一応と但し書きがつきかけた、古道具屋である香霖堂。
昼間に訪れる客がいないのに夜に訪れる客がどれだけいるというのだろうか。
いない。
誰もいない。それゆえに霖之助は心置きなく自分の趣味や用事に専念できる。
例えば読書、例えば道具の製作、そして例えば霧雨の剣――草薙の剣の手入れなどだ。

鞘から抜く。剣を握る。波紋を眺める。
その外見は普通の刀にしか見えないが、用いられた素材と霊力は数ある道具の中でも最上位である。
霧雨、と名を上書きされてあるが、それはあくまでも偽名。僕の能力が『其は草薙である』と告げる。
草薙の剣といえば有名な神器であり、これを手にした者はすべからく英雄に相当する事となる。
その剣が、何の因果か僕の店まで流れ着いたのは何の因果か。

本来ならば崇め奉るか厳重に封印して然るべきなのだが、諸事情により僕にはどちらを選ぶのも躊躇われた。
崇め奉るのは収集品としても商売人としても性にあわないことだであるし、封印するには手に余る。
もちろん不可能とは言わないが、そうしてしまうには余りにも惜しい逸品だ。

草薙の剣の由来をさかのぼれば、それは幻想郷が幻想郷となるよりも遥か遠い時代となる。
その歴史が草薙という名に力を与え、その力は信仰を生み、信仰は再び力となった。
だが文献や知識を見れば、神器たる草薙はその名前ゆえに数多くの説話が発生しているのだ。

僕の能力を以ってして、いま僕が手にしている草薙の剣は間違いなく草薙の剣たりえる。
自分の力を信じることができないほど自分を卑下するつもりは毛頭ない。
だが、この草薙は本物の草薙なのだろうかといえば、『草薙』の名に関する話の多さが
僕にそれ断言させてくれない。

僕は剣の達人ではないが、道具を扱う以上はそれなりに用法が存在する道具の扱いは心得ている。
この剣は草薙であるという名を差し引いても、ヒヒイロカネの刀であり、大業物か最上大業物と同格であろう。
構える。ゆっくりと振り下ろす。ゆっくりと横に薙ぐ。片手でも両手でも、まるで腕の延長のように動く。
この動きは奉納の演舞ではないのだが、それでもなお夜に僅かな明かりの中で行う動作は演舞じみていた。

そっと鞘にしまい再び同じ場所に戻す。そして一息つくと自分の中で考えが纏まってくる。
この草薙の剣は、おそらく数多くの説話のうち一振りであり、本物ではないのだろう、と。
本当の草薙の剣はもはや神格をもつ神の一部であり、信仰を補助するための道具であるからだ。
信仰から目を背けてただ一振りの剣として刀と相対すれば、そこには物質という現実がある。
草薙の名前は絶大だ。だからこそ草薙の剣は存在しない。故に手に入る事はない。
剣という枠を超えてなお剣という一つの暗喩的な象徴としての姿を留める神では、僕の店には扱えない。
だから僕は「霧雨の剣」と名前をつけた。あくまでも草薙は属性、あるいは形容に過ぎない、と。
このヒヒイロカネの刀身と狂おしいほどの霊力で、かの草薙の如き品に相違ないだけである、と。

しかし草薙の名前は強力であり、その名を失わせる程の力を僕は持っていない。
僕は草薙の剣に魅せられている。不要であるにもかかわらず手に取り、かように振るってしまう。
行き場のない力を発散させるのもまた、道具の手入れの一つなのだ。

汗が引いてきた僕は、身体を拭いた。
けだるさと、清清しさと、すこしゾッとするような寒さを覚えるので、いい加減に眠ることにする。
まったく、草薙級の道具となると他の道具のようにはいかないのが困りものだ。
世の中は程々が大切なのだと、布団を敷きながらしみじみ思う。


「……夜中。薄明かりの中で男性が独り、蛇のいわれのある剣を扱うという構図」

声。

「ッ……そういわれると何か背徳的な響きがありますね。覗きとは感心しませんが」
「あら、それならもう少し気を使って頂けません?節度をもって回数を減らすような」

口元を扇子で隠しているが、その瞳は僕をからかっているように思える。
八雲紫。神出鬼没の大妖怪が、当然のように僕の後ろに立っていた。

「そうでないと、私も気が気ではなくて困ってしまいます。ふふ」
「……星と月の巡りなのか、最近の手入れは少し多いとは思いますが」

そう言ってなぜあのような『手入れ』をしてしまったのだろうか、と僕は後悔していた。
力は力を呼ぶのだ。彼女のようにわかって現れるのでなくても、
何かの拍子で力にあてられた妖怪がいるのは考慮すべきだったのだ。

「あのような剣には、相応の鞘が必要だと思いませんこと?」

彼女が歩いて僕の視界から消える。その方向には草薙がある。
後を追うと、彼女は草薙にそっと触れていた。

「抜いてくださいませんか?」

彼女に見せるのは憚られたが、ここまでされては僕も断ることが難しい。
おそらく彼女は最初からそのつもりで来たのだろう。許可をとるのは形式に過ぎない。
僕はゆっくりと抜くと、鞘を彼女に手渡した。
すると彼女は何か小声でささやきながら鞘を撫で、僕に鞘を向ける。

「あとは再び鞘に収めるだけです。これで『手入れ』の回数は減りますわ」

彼女は鞘を持ったまま微動だにしない。僕に、そのままいれろということだろう。
そっとあてがうと、彼女の持つ鞘に僕は草薙の剣をおさめた。

……そうして収めてから初めて気が付く。体の中に溶岩のような衝動が溜まっていた事に。
どのような衝動なのかは中々説明しにくいが、何らかの熱があったのだ。

「こうして二人ですると――「そこまでにしましょう」あら、そうですか。ふふ」

何となくいいようにされそうなので――もう、されているが――彼女の言葉を遮った。
なるほど、どうやら彼女に助けられたようだ。

「礼は後日でいいですか?今日はもう遅い。ひとまず……ありがとうございました」
「どういたしまして」

彼女は寝所に向かう。出口はあっちだ、というのを飲み込んで彼女の背中を追う。
そして布団の前に立った彼女は、僕がまばたきをすると綺麗サッパリ消えてしまった。

「さっさと寝ろということか。子供じゃあるまい…し……」

明かりを消して、小言を言いながら布団にもぐりこむ。
意識が無くなる寸前、隣に彼女の笑い声と気配を感じたが知ったことではない。



久しぶりに書いたら、エロくないんだけどエロく感じる気がする不思議な文章に。
実際にはエロとかそんなこと無いんです。KENZENです。きっと。たぶん。
この記事に対するコメント

>実際にはエロとかそんなこと無いんです。KENZENです
そーなのかー
【2009/05/01 22:53】 URL | #TJwsHiiU [ 編集]


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