未確認歩行物体
東方香霖堂などが好きなケダモノの住処
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再掲1:風鈴
ファイル名はWho霖.txt …すごくどうでもいいですね。


――りん

どこからともなく風鈴の音が聞こえてくる。


夏日と言って差し支えないような暑い日差し。
森を抜けて風が吹けば涼むことも出来るだろうが、そうそう都合よく吹いては来ない。
ときどき、風と呼ぶのも憚られるような空気の流れはあるのだが。

――ちりん

どこからともなく風鈴の音が聞こえてくる。


自分の手のひらの汗で本が湿気るような気さえする熱量の中
普段の服装でいることなど、馬鹿か暑さ知らずの者がやることだ。
こういうときは薄くゆったりとした服装で時が過ぎるのを待つに限る。
あるいは倉庫の中を掃除して汗だくになった後で
いさぎよく井戸水を浴びるのもいいかもしれない。

そんなことを考えてはみるものの、動く気にはならなかった。
時間は山のようにあるのだし、今すぐに何かする必要性など感じられない。
このうだるような空気のおかげで、全ての熱意は温度の中へと埋没している。


――ちりんちりん

どこからともなく風鈴の音が聞こえてくる。


「……風鈴?」

独りごちて、あたりを見回した。
風は吹いていないのに、風鈴をぶらさげた記憶もないのに
どこからともなく、あの涼しげな音だけは聞こえてくる。

目を動かし、視界にとらえられない。
続いて首を動かしてみるが、まだ視界にとらえられない。
立ち上がって周囲を見回してみるが、そのようなものはどこにもない。
ただ、音だけが聞こえてくる。

「音は聞こえども姿は無し――か。さて、どこで鳴っているのやら」

好奇心がくすぐられたので、立ち上がって店の外に出てみた。
暑さは気にならない。風は吹いていないのに、音だけは鳴り続ける。
右から聞こえたので店の右手に回る。
するともっと右から聞こえてきたので、さらに右手に回る。
それを、さらに二回。店を一周したところで、もう一度耳を済ませた。

――りん

店の中から、風鈴の音が聞こえてきた。

「物の怪の類かな?最近、風鈴そのものを拾った記憶はないのだけど」
せいぜいが祭器らしい銅鐸だ。もちろん、直後に八雲紫が持って行ったが。

……八雲紫。その名前を思い出して、僕は風鈴の音と彼女を重ねていた。
状況は似ている。彼女はそもそも認識できる範囲の外から現れる。
そして、追いかけようとしてもすぐに消えてしまうのだ。

「――お邪魔しています。今日は、とても暑いですわね」
はたして、そこにいたのはまさに八雲紫そのものであった。
とても暑いと言ってのける彼女は汗一つかいているように見えない。
いつも通りといえばいつも通りである。

「暑いですね。……どうも、先ほどから風鈴の音が気になりましてね」
「もちろん、私の仕業です」

何のために、と口にするのはたやすいが、言った所で教えてはもらえまい。

「暑いので、少しでも涼んでいただこうかと」
「風流なのは結構ですが、その手元の扇であおいで頂いた方が幾らか涼しくなりそうですね」

あいかわらず心の中まで見透かしてきたような一言だ。
僕にしてみれば、扇であおいでもらうよりもよほど涼しくなる話だ。

「ふふふ。先日持っていった品の対価をお持ちしましたわ」
「おや、それはご丁寧に」

できれば早々にお帰り願いたいのだが、何故か八雲紫は匙と硝子の器を取り出してきた。
硝子の器には白い粉状の何かが盛られていて、さながら盛り塩のような様相を呈している。
そこに小さな器から、水のような何かをかけて、こちらへと器を持って近寄ってきた。

「ん、これは……かき氷?」
「即物的なあなたには、こちらの方が良さそうですからね。はいどうぞ」

匙に乗せられた氷が僕へむかって差し出されている。食えということだろう。
どんな味がするのか想像できないし、いまの氷はどこから出したのかもわからなかったが
そんなことを些事にしてしまえるほどに、匙の上の氷は輝いて見えた。

口にしてみる。甘い。どうやらあの水のようなものは、砂糖水の類らしかった。
氷は僕の熱ですぐにとけて、僕はその氷だったものを飲み込んだ。
冷たい。僕がいま一番求めていた類のものだ。

「かけたのは甘露ですわ。こういう日には冷たいものが何よりですわね。
 ……ご存知ですか?ここまで細かく削る前は、氷の塊を人が刃物で削ったのを」

そういいながら八雲紫も匙で氷を掬って食べていた。意外と手の動きが早い。
僕には一口だけ食べさせて、あとは全部自分で食べてしまうのだろうか。

「はい、あとはどうぞ」
「……ふぉうもひゅいまふぇん(どうもすいません)」

そんなことはなかったようで、匙と器を渡してくれる。
僕はお礼を言いながら、せっかくなので溶けてしまう前に書き込んでおいた。

「そうそう、そんなに食べると」
「ッ!?」
「ほら、そんな風に頭が痛くなりますわよ。ですが、ほんの二、三分でおさまります」

口元を扇子で抑えているが、明らかに笑っているのが見て取れた。
最初からこれが狙いだったのかと邪推の一つもしたくなるが、もはや後の祭りである。

「座ってゆっくりどうぞ?」
「……。」

黙々と食べる。してやられてしまったが、確かに美味しいかき氷だ。


――ちりん

ふと、僕の後ろで風鈴の音がした。
続いて僕に風が吹いてくる。もっとも、風も、風鈴の音も、彼女の手元からであるが。

「……それに風鈴をぶらさげますか」
「非売品ですし、構わないでしょう?こんな可愛い『ひひいろかね』の剣ですものね」
「……。」
「風もご所望でしょう?天狗の団扇とまではいきませんが、私の風をどうぞ」

どこまで知っているのだろう、と考えつつも僕の手は氷を掬うのに忙しかった。
色々とやめていただきたいところであるが、無碍に断ると後が怖い。
というか、大妖怪にここまでされると、そっちの方が恐ろしい。

結局のところ、僕が一番すずしくなったのは、
かき氷より、風鈴の音より、団扇の風よりも、彼女の存在だった。


――ちりりん。

彼女の鈴のような笑い声と共に、風鈴の音が聞こえてきた。

まったく、ぞっとする話である。

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