未確認歩行物体
東方香霖堂などが好きなケダモノの住処
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虫干しというか何というか
「ああ、いざ手をつけるとなると気が滅入る」

店主の霖之助は、物置の品々をゴザの上に並べる。
露天を開いているわけではない。

彼が朝に小屋から引きずりだしたのは、無縁塚で拾い集めた品だった。
小屋というからには蔵や倉庫というほど立派でもないが野ざらしよりは上等な保管場所だ。
不定期開催、割合恒例。客も少ない香霖堂ゆえ可能な、日中の選別と虫干しである。
用途がわかっても価値のつけようがないため、溜め込めば死蔵品で溢れてしまう。

この店主、売れもしない道具に埋もれて過ごすほど収集に取り付かれているわけではない。
彼の営む香霖堂には様々な売り物が集うが、中には値段のつけようがない品も多い。
それでも簡単に捨て置けないのは収集癖ゆえか、商売人の性なのかはわかりかねる。

いずれにせよ定期的にやらなくては彼の生活もままならぬが
いざ広げてみると数の多いこと多いこと。

「我ながら、よくぞここまで運んだものだ」

霖之助は盛大に溜息をつくと一つ一つ見聞していく。
特に多いのは雑誌のたぐいだが、大半は濡れたりしており読めたものではない。
放っておけば腐るなり虫が食うなりするので収集はしているものの、中々に売り難い。
書いてある内容も今ひとつ理解し難い。
技術書の類となれば、揃わねば単なる紙束だ。

「ああ、こいつは紙魚やら何やらで、もうダメだな……となると」

小瓶とピンセットを取り出した霖之助は、目当ての虫が居ないか探し始めた。
紙魚というと本そのものを食い荒らす虫である。
だが幻想郷において時々『紙魚』の変わり種がいる事を、霖之助は知っている。

ページを慎重に捲る霖之助は、ある部分から朽ちた色の白紙のページを見つけた。
目当ての『それ』を探して、慎重に次のページを捲る。
そこにはあらゆる文字や色を集積した奇っ怪な紙魚がいた。

「……まぁまぁの大きさだね。僕としては本に興味があるのだけど」

手早くつまんで瓶に放り込む。こうなると使いものにならない。
燃料として燃やしてしまうか、単なる古紙として売り払うかなのだが
紙の質がバラバラであるため売り払うのはいくらか面倒であった。
人里の方でどこまで需要があるのかも判別しかねる。
他の雑誌も同じよう判別し、他のガラクタの類はまとめておいた。
気がつけば瓶の中には同じような虫が4匹もいた。
それぞれが食った知識がうごめいているように見え、中々おぞましい。
これを千人の類やら、竹林の医者あたりが高値で買い取ってくれるのだ。


「あら、もう始めてたのね。おはよう霖之助さん」
「もう昼が近いのにそれはどうなんだい、霊夢」

声の方向を見上げると、巫女が飛んできた。
飛ぶ、という表現の割にはのんびりとしたペースなのだけれども。

「はいはい、こんにちは。準備はできてるし、いきなり転じたりしないわよ」
「そういってこの前、古道具が動き出した時は困ったよ。あれは玩具だったようだけど」
「うっ」

古道具を扱うと、曰くつきの品は必然的に多くなる。
道具の持つ歴史や記憶は、その道具自体に物語を生み出す力を与えてしまう。
付喪神。名前も持たぬ、小さな神々。
そうならぬように鎮めるのは、商売人ではなく巫女である博麗霊夢の役割であり
霖之助は、不定期にやるたびに彼女に出張願っているのであった。

「何にせよ、僕の仕事は終わったからあとは任せるよ」
「はいはい。」

瓶を道具入れにしまい、後は彼女の儀式を見守る。
対価は物納、というかお茶である。
贔屓の巫女がいるというのも何だか妙な話であるが、それもいいだろう。
どのみち客が来るまでは在庫整理にかかりきりである。

霖之助は手慣れたようにこなす彼女を見ながら、在庫整理で日が暮れる事を考える。
やはり茶菓子でも出して客を招く祈祷をしてもらうべきなのだろうか、という考えや
そうなると茶ではなくて昼餉も用意しておかなきゃならないのだろうか、などと
考えるのであった。

「(ああ、いざ手を付けてみても気が滅入るなぁ)」

本日の香霖堂:今日も、さほど珍しいこともなく暇であった。


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